そこは、この駅の改札口だった。


互いの学校へ向かうまでの光景。僕は上り線で彼女は下り線。


毎朝を当たり前のように、共に歩んだ道のり。


誰かにからかわれるのが恥ずかしくて、僕らは少し離れて駅に歩いていくんだ。


そうしてそれぞれの降り口へ僕らは別れていく。


小さな駅だからホームに降りても互いの姿はちゃんと見えて。


それでも少し寂しくて。


毎朝の、当たり前の光景だった。


最後に君は笑いながら手を振っていうんだ。僕が赤面するくらい大きな声で。


ああ。なんて言うんだっけ。


透き通るような声。


暖かい声。


こんなにもはっきりと思い出せるのに何故だか台詞が出てこない。


たった数年で、こんなにも記憶は色褪せてしまうのだろうか。






高く鳴り響いた列車の汽笛の音で、僕は現実に引き戻された。


少し眠ってしまっていたようだ。


どうやら列車は次の駅へと走り出すらしい。


僕もそろそろ歩き出そうか。自嘲気味に笑いながらゆっくりと立ち上がる。


列車はゆっくり、ゆっくりと煙を吐き出しながら駅を離れていく。