たった五文字。決して上手くはないが丁寧に記された言葉。


封筒を裏返すと、そこには同様に綺麗な文体で記された幼馴染みの女性の名前があった。


その時僕には踊りたくなるような喜びの反面、頭の中に一抹の不安がよぎった。


彼女は僕と同じ二十歳だ。つまり何処かに嫁ぐ年齢でもあるわけで。


すぐに頭の中を埋めつくした不安は僕に封筒を開けるのを躊躇わせた。


何故僕がこんなにも一喜一憂するか。それは彼女が僕の恋人であったからに他ならない。


充分な理由だろう。


つまり彼女が結婚なぞしようものであれば僕は絶望の淵に追いやられると言う訳だ。


しかし随分と都合の良い脳味噌を持って生まれたものだ。


彼女を捨て、故郷を去ったのは僕の方であるというのに。


未だに彼女との思い出に、未練がましくもしがみついているらしい。


情けないことだ。


震える手を抑え、封筒の口を切ったのはそれと睨み合い一時間程が経過した後のことであった。