女王・卑弥呼は優しい、作り物の笑顔を彼らに見せた。
「苦しゅうない。その代わりに、その方らにもいろいろと協力してもらうことがあろうぞ」
「はっ。私どもにできることでしたら、なんなりと」
「その方らが中央を追われ我が邪馬台国に落ち延びて日も浅い。まずはゆっくり体を休めるがよかろう」
卑弥呼は弟であり腹心であるエンキドゥをしたがえ塔の中へと入って行った。弟といっても、見た目は壮年の貫禄を備えたエンキドゥの方が一回り以上も年上に見える。対して卑弥呼は顔もしなやかな体つきも二十代程度のそれだった。
「腹の中では何を考えているか分からん連中じゃ。目を離すでないぞ」
卑弥呼は小声でエンキドゥに指示した。
「わかっております。・・・しかし、今夜の夕食会に日本の大使も招待しておりますが、亡命者たちと同席させても良いものでしょうか」
「かまうまい。立場は違えど、もとは同じ穴のムジナじゃろう」
卑弥呼がバルコニーを去ってから、亡命官僚たちは無言でお互いに目配せしあった。そして、彼らも遅れて女王の後を追って塔に戻っていった。
はるか遠方の眼下では、うら若い男女がたどたどしい初めてのデートを青空の下で行っているのだった。