第九章・フィガロの花嫁


拘置所に入れられた相田は、そこに川口がいることに驚きと安心の声を上げた。
「川口、無事だったのか!」
「この状態を無事と言っていいのか分からんがな、体は大丈夫だ」
川口の頭には包帯がまかれており、少なくとも怪我をしていることは事実であることが確認できる。それでも命にかかわる状態というわけではなさそうだ。
「てっきり殺されたものとばかり思っていたが。どうなってるんだ?」
「おそらく、卑弥呼の超常のちからというやつに俺もやられたんだ。執務室で仕事をしていたら、突然体の自由がきかなくなってな、俺の意思とは関係無しに動き始めたんだ。妙な心地だったよ。俺の手が、今日の大使館のおやつだった八つ橋を掴むと、それを凄まじい勢いで頭にぶつけ始めたんだ。目の前が真っ赤になって、気を失って。そして俺は仮死状態になったんだよ。八つ橋だけにな」
「いろいろ突っ込みたいが、今はそれどころじゃないな」