相田と書記官たちはさらに何度も中の川口に呼びかけたが、
「このままでは埒があきません。もし本当に、なにか病気で倒れて一刻をあらそうのだとしたら」
と書記官の一人の意見に同意して扉を破る事になった。
男数人がかりで何度か扉に体当たりすると扉は開いた。ドアノブが壊れて弾き飛ばされ、大理石の床に耳障りな冷たい音を立てる。
「川口・・・!」
部屋に飛び込んだ相田は、執務室中央の絨毯の上で、頭から血を流してうつぶせに倒れている川口を発見した。
「おっ、おい!川口、川口ッ!」
相田が駆け寄って川口の体を揺するが、反応はなかった。居合わせた書記官たちが「大変だ、救急車を!」と叫びながら右往左往している。
相田は川口の体を仰向けにひっくり返すと、顔に手を当てたり耳を口元に近づけたりしながら、素人にもわかる最悪の状況を思い知った。
(死んでいる・・・)
突然の事態に、相田の頭の中は真っ白になった。
「なんだ、これは」
相田は、川口の体のまわりに小さな物体がいくつも落ちているのに気がついた。手のひらの半分ほどしかないそれらに、川口の頭から流れているのと同じ、生々しい赤がこびりついている。
それは、日本の伝統的和菓子である八つ橋だった。