その日、相田は午後七時に大使館に来るよう、川口と約束していた。
予定通り大使館に赴いた相田であったが、大使館の様子がいつもと違うのに思い当たる不安を掻き立てられた。
「どうしたのですか、騒がしいですが」
「あっ、相田さん」
相田に呼び止められた書記官が不安そうな顔で彼に説明した。
「川口大使と連絡が取れないのです。執務室にこもったきり、部屋は中から鍵をかけられていて開かないし、ドアをノックしても内線で呼び出しても応答はないし、もしかして何かあったのかと・・・昼間はいつも通りだったのですが・・・」
相田は急いで川口の執務室に向かった。ドアノブを引いても扉は開かない。相田はドアをノックしながら、
「川口、川口！俺だ。返事をしろ！」
と呼びかけた。しかし、部屋からは応えはなかった。
相田は携帯を取り出し川口の携帯をコールすると、ドアの向こうから川口の着メロの『青山テルマ/そばにいるね』が聞こえてきた。
「川口、イタズラはよせ！本当にどうかしたのか!?」