「イシュタルの色男さん、そのくらいで得意にならないで貰いたいわね」
スザンナは後ろを振り返り、「みんな!」と集落の仲間に声をかけた。彼女の集落の人々も、相手側に負けじと応援を開始する。
「ゴーゴーレッツゴー・レッツゴー・スザンナ!行け行けスザンナ・行け行けスザンナ!ファイトファイトスザンナ!生まれたときからトコジョーズッ!オーッ!」
今度はスザンナが得意満面の笑みでフィガロを見る。フィガロは、
「おいおい・・・そんなのワイルドすぎて逮捕されちまうだろ・・・」
と予想以上の反撃に押されつつあった。
「フィガロー、負けるなー!散歩に誘え、散歩にー!」
「チャンスだぞ、追い込めスザンナー!手を握れー!」
それぞれの応援団が盛り上がる。応援団の一部はすでにそこいらに座り込んで酒盛りを始めていた。このイベントは子孫繁栄と集落同士の交流を同時に成就させる具体性を持ったお祭りであり、若い二人にとっては恋の真剣勝負の場なのだ。
もしこのお祭りをきっかけに付き合うことが決まれば、集落では暗黙の了解のうちに二人は婚約したものと見なされる。
フィガロとスザンナは見つめあった。フィガロが瞳を逸らさずに少しだけ顔を横に向け、川沿いの道をスザンナに指し示すと、スザンナは彼に微笑を返して彼の横に移動した。