ユリが俺の目の前に現れたのは、3ヶ月前。



俺の部屋の前に、不自然な程に黒い髪の女がいるもんだから、思わず…いやどう考えても声を掛ける必要があった。


女は、ドアに持たれかかって俯いて立っていた。



「あの…。何か用すか?」



軽く前屈みに話かけると、黒髪の女はいきなり顔を上げた。



幽霊ではなかった。


でも、それと疑わしい程に肌は白かった。



年齢はタメくらいで、身長は俺のアゴあたり。
ひと目で美人だな、と思うくらいの女。


女は、ゆっくりと瞬きしながら言った。




「あ〜、今日からここに住むはずだったんだけど、カギなくしちゃって。」


真ん中分けにしてある長い前髪を耳に掛けながら、目を細めた。



「おや、それは大変だ。」


………





「じゃなくて、ここは俺が住んでんの。あんた、部屋間違えてんじゃねえの?」




「そんな訳ないよ。ほら。」


女が見せた一枚の紙切れには、

『多目的ルーム』と太いゴシック体の文字に、ここの住所、103号室、入居予定日が書いてあった。