そう思ったのに、無性に腹が立った。



何も言わずに?



そんなのずるい気がした。


俺はすぐに家を飛び出して、ユリを探した。



アテなんてないのに、家から駅、駅の周りを必死に探した。



見つからないのは分かってたけど、必死に探したんだ。



ぢょうど深夜0時になる頃に、疲れ果てて駅前のベンチに座った俺の頬に、一粒の雨が当たった。





と、同時に一気に雨が降り注いだ。


「くそっ。」




仕方なく俺は家へ帰る事にした。雷も鳴ってるが、もう走るつもりはない。



すぶ濡れになりながら、部屋の扉を重く開けた。



ガチャ。




すると、真っ暗な部屋に人影を見つけた。



間違いなくユリだろう。



「あ、タロー。電気付かなくなったよ?本当にボロいよこの家。」



カーテンから外の光が差し込んで、こっちを向くユリの表情が見えない。



「お前…。」



俺はバタバタと部屋に入って、気が付いたらユリを抱き締めていた。



細くて、強くしたら折れそうな…でもあったかいユリの体を、初めて抱き締めた。


甘い、懐かしいかおりがした。


「ちょ…やだ、タロー冷たい!」


グッと、ユリの腕が俺を拒む。



雨の中にいたんだ、当たり前だろ。



「探してたんだ、お前を。」


すると、ユリは一瞬動きを止めてすぐに、力を抜いたように俺に持たれた。




「私が、いなくなったと思った?」



「ああ。」




「悲しかった?」



「いや、腹が立った。」



クスッと笑いながら、ユリはそっと俺の腕から離れた。





「ちょっと散歩してたの。」