部屋のドアを閉める前、洋子の視線に気付いた男が微かに笑った。


洋子もつられて微笑む。


その時


洋子の笑顔が凍り付いた。


僅か20センチ程の隙間から見えた、隣の部屋のドアノブを握る手が


『あの夜』の手と同じような気がしたから。


ドサリと生八ツ橋が洋子の手から滑り落ちる。


「ああ、『あの夜』も生八ツ橋が散らかって……」


震える声で洋子は呟いた。


わからない。


わかるのはただ、今夜も……


今夜も眠れそうにないということだけだ。


そう、『あの夜』と同じように……。






・完・