踏切の向こう側

今僕は夢を見ている。

夢だと分かっても、目を覚まそうとは思わない。

それは、その夢で僕は再びあの踏切の前にいたからだった。

夢の中で“彼”が何を言おうとしたのか、“彼”は誰なのか。

すべて、知りたい。

そんな想いで自ら望んで夢を見続けた。




やはり、前には“彼”がいた。

彼も僕を見つけたらしい。
弱々しい顔で微笑んだ。


『また、会ったね。』

どうやら僕のことを覚えているらしい。


「そうだね。ところで一体、君は?」

僕も会釈と共に軽い挨拶をして、手っ取り早くこの前聞き逃したことを質問した。


『僕は、翼。本郷翼。君は?』


「僕は、笹塚マサキ。」

夢の中で声を発している僕は、現実の自分とは違うものだった。

普通の子供のように挨拶をして、普通に喋っている。



今日はまだ夢が終了しない。

自ら見続けたいと思っているからか。


改めて“翼”を見る。

夢という曖昧な感覚の中で、翼の形象は妙にはっきりしていた。