踏切の向こう側

『はい、静かに。席について。』


大きな声と共に教室に現れたのは、5年2組の担任、益田だ。


下の名前は、忘れた。



彼は‘情熱’や‘努力’をよく口にしており、俗に言う熱血教師である。



しかし僕は知っている。

彼の言う‘努力’は口だけで、実際には彼が‘結果’や‘才能’だけで人を見るような奴だと言うことを。



彼も4月の頃は僕に話しかけてきたのだが、今では僕の立場や性格を理解し、興味を示さなくなった。



『じゃあ、出席を取ります。』

名簿を開き、生徒の名前を次々に呼んでいく。

生徒達は無邪気に、はい、と明るく返事をする。


『笹塚マサキ』


僕の名前が呼ばれる。


『…ハイ』



一日のうちで、唯一僕が声を発する瞬間。

生徒達はその瞬間、僕に視線を集中させ、また、今までの騒々しさが信じられないほどに静まり返るのだった。