「誰かに奪われるために、ミズと距離を置いたわけじゃねえんだよ」

レンがあたしの手を握ると、歩き始めた

温かいレンの手が、あたしの指を優しく包み込んでくれる

なんだか、夢の中にいるみたい

夢なら、覚めたくないな

レンが隣にいてくれるなんて、たとえ夢でも嬉しいよ

図書室に入ると、残りの日誌をレンが書いてくれた

あたしが書くって言ったのに、レンはあたしを膝の上に座らせて、抱きしめながら、日誌を書いた

すごく恥ずかしい時間だった

どうしてこんなことをするのか…わからないよ

顔も耳も首も、すべてが熱くて、きっと全身がゆでダコみたいに真っ赤になっていたに違いない

それくらい身体が熱かった

「レン、一人で座れるから」

「一人で座ってみろ。立宮の手下に連れて行かれる」

「え?」

「右の本棚の影に2人、左の本棚の影に3人、こっちを窺っている。立宮に言われてるんだろ。自分の彼女を連れ戻して来いって。俺に隙があれば、連れ去れる。それともあいつのところに戻りたいか?」

あたしはふるふると首を振った

「なら、この状態を維持しろ」

「どうして…」

「自分の女を奪われて、黙ってる性格じゃねえだろ」

「そんなぁ。それじゃ、レンに迷惑が…」

レンがボールペンを動かしながら、ふんっと鼻を鳴らした

「わかりきってる心配をするな」

「あたし…戻ったほうがいいの? レンはどう思ってる?」

レンが「ふう」っと息をつくと、日誌を閉じてからボールペンを筆箱にしまった

「教室で俺は、ミズに何て言った?」

「え?」

「俺は、ミズに何て言った?」

「『来い』って」

「だろ? どうして『戻れ』と思う?」

「だって、迷惑でしょ?」

「昔からだろ」

レンがあたしの頭を撫でると、少しだけ表情を緩めた