天然なあたしは悪MANに恋をする

「茶化さないでくださいよ、崎先輩」

「先輩じゃねえだろ。ここでは『先生』だろ」

「ああ、そうでしたね。つい、昔の呼び方になってしまいます」

そっか…片岡先生と崎先生って知り合い同士なんだ

だから、片岡先生はあたしの顔を知っていたのかも

数学の担当をしているクラスの生徒を前もって、写真で教えておいてくれたんだね

納得、納得

「えっと…あの、ありがとうございました」

あたしは片岡先生に頭を下げると、数学準備室を出た

扉をゆっくり閉めていると、『あ、いたっ! 瑞那、探したんだぞ』と廊下の遠くのほうから、大きな声が聞こえてきた

え?

あたしは声のしたほうを見ると、手を大きく振っている立宮先輩と目が合った

立宮先輩が走ってあたしに近づいてくると、がしっと手首を掴んだ

「…たく。探したぞ。放課後になったんだから、行くぞ」

「え? どこにですか?」

「デートだよ、デート! 放課後なんだから、兄貴に文句は言わせねえ」

「あの…でも…」

「なんか用事があんの?」

「いえ、無いですけど」

「じゃあ、いいじゃん。よっしゃあ、遊ぶぞっ」

立宮先輩は腕をあげて、明るい声をあげると、ずんずんと歩き始めた

え? ちょっと待ってよぉ

あたしは別に遊びたい気分じゃないし、セイちゃんとリンちゃんに貸してるお金があって…無駄遣いはできないし、困るんですけど

あたしは、立宮先輩に引っ張られるまま、転ばないように必死に足を動かした