天然なあたしは悪MANに恋をする

終礼が終わると、あたしは数学の教科書とノートを持って、数学準備室に向かった

がらっと扉を開けると、校内で見かけたことのない若い男性がスーツを着て、ソファに座っていた

「あ…れ? 崎先生は、いらっしゃいますか?」

あたしは数学の準備室だよね?と、部屋の前にある札を確認しながら、質問をした

目を室内に戻すと、スーツの男性の顔を見る

スーツの男性はスッと立ちあがると、にこっと笑った

「もしかして君って、瑞那ちゃん?」

「え? あ、はい。妃木(きさき)瑞那ですけど…何か?」

初対面の男性に名前を言い当てられて、あたしは動揺した

この人は、どうしてあたしの名前を知っているのだろうか

「そう…君が、瑞那ちゃん」

男性はあたしの頭からつま先まで見つめると、目を細めて微笑んだ

すごく親しげな顔をしているけれど、あたしはこの人を見たことがない…と思う

それともどこかで会った経験があるのだろうか?

首を捻って、あたしの脳内にある記憶を必死にひっかき回した

でも、思い出せない

やっぱりこの人とは初対面だよね?

あたしは考えることに集中していたために、手に持っていた教科書とノートを床に落としたしまった

「あ…」

あたしはしゃがむと、慌てて拾おうとした

「僕は片岡賢悟。教育実習中なんだ」

男性が数学の教科書を拾ってくれると、自己紹介をしてくれる

聞いたことのない名前だ

やっぱりあたしは、この人を知らない

なのに、どうしてこの人はあたしの名前を知っているの?

「質問?」

「え?」

「だって崎先生に用事があるんでしょ? 数学の教科書とノートを持っているし。僕でよければ、見てあげようか?」

片岡先生がまた優しい笑みを見せてくれる

「お願いしてもいいですか?」

「もちろん」

あたしは先生たちの机に教科書とノートを広げると、授業でわからなかった箇所の数式をいくつか教えてもらった