無口な王子様

それにしても、こんなに服屋さんで疲れたことなんてなかった。

亜由美のファッションショーは1時間にわたり、終わる頃にはすっかり生気を抜かれてしまった。

亜由美がここで働く事になっても、絶対に顔を見にくることはないだろう。

そして、亜由美は8700円のニットのワンピースに決めたようだ。

お姉さんが着ているワンピースと形違いらしく、背中と胸元が大きく開いている。

これだけ露出が激しい服が、私の持っている背中をちゃんと覆ってくれるワンピースより遥かに高いとは、詐欺だなと思った。

生地の分量で値段どうこう言うなんて、この感覚がすでにオシャレになれないってことなんだろうけど。

でも、そんなのどうでもいい。

私はやっと外に出れる事のほうがよっぽど幸せだった。

「じゃぁねぇ!バイバイ!また来てねー!」

お姉さんの声を背にして私はようやく脱出に成功した。

「凛も買えばよかったのにぃ。」

亜由美はしつこくそう言うけど、背中が開いてなくて、もっと安い普通の服がいいなんていえなかった。


私は、これも一つの社会見学だなと思い、頭の中をぐるぐる回るあの大音量の音楽を振り払う事に専念した。