「なんだね?君は…」

細くて少し釣り上った瞳がわたしを見つめる。

20代半ばくらいだろうか?

黒髪がきれいなウェーブを描き、高級そうな服をまとった姿は見るからに貴族のものだ。

「あ…の…」

……怖い……。

なんだろう…こんなに威圧感を感じた人間は初めてだ。

ジル・ド・レイは何も答えないわたしを下からじっくりと見渡した。

その瞳は鷹のように鋭く、見られる者を凍えさせる何かを持っていた。

………この感覚……どこかで……!?

なんだろう……わたし、この人と会うの…初めてじゃ…ない!!

目まいがする。

……立っているのが、やっとだ―――――!!

クラリ、と頭が揺れて後ろに倒れかかる。

朦朧とした意識の中で、誰かに後ろから抱えられたのを感じた。

「おやおや、こんな所にいたとはね。ジル・ド・レイ様、うちの新米娼婦がとんだ失礼を」

この声……シセ………?

体に力が入らなくて、抱えている人間を見上げることすら、できない。

「そうか。娼婦には見えなかったがね。男装とはまた粋な演出だ。エリザにもさせてみたいものだ。ではエリザ、行こうか」

ぼんやりと、薄れていく意識の中で、ジル・ド・レイがエリザの手を引っ張り外へ連れて行こうとしているのが見える。

「いや―――!!ミシェル!!お願い、ミシェルを離して!!」

エリザがわたしに向かって手を差し伸べる。

でも、その手は彼女の夫によって無理矢理押さえつけられると、娼館の外へと消えていった。

「ミシェル―――――!!!」


わたしの意識は、エリザの叫びを最後に、奈落の底に落ちていった。