「どうしてまたこんなところに女の子が?……野盗にでも襲われて逃げ落ちて来たのかもしれないわね」

フランスは、ブルゴーニュ派とアルマニャック派に分裂して内戦状態にあった。

このロレーヌとシャンパーニュの境界地帯は、頻繁に野盗や敗走してきた兵士、家を焼かれた者たちによって襲われていた。

だが、このドンレミ村はまだ平和そのものだった。

イザベルは少女を心配げに見つめるジャンヌにちらと視線を投げかけると、微かな不安を胸に抱いた。

……とうとうこの村にも、その時が来たというのか。

イザベルは少女の金色の長い髪に手をやりながら、ため息のようにつぶやいた。

「神よ、この幼気(いたいけ)な少女と、わたしたちのドンレミ村をどうかお護りください」

その時、ジャンヌが少女を抱き起し、彼女のスカートのポケットに入っている紙きれを抜き取った。

「…お母さん、これなんて書いているの?」

イザベルは自分の名前程度しか読み書きのできない娘にかわって、その殴り書きのような文字を読んだ。

「…名は、ミシェル。1414年生まれの8歳」

少女は捨てられたのだと、イザベルは悟った。