†神様の恋人†

「こうしている間にも、ブルゴーニュ軍が近づいているかもしれない。戦火を逃れたはぐれ兵士も危険です。動けない者、女性子供を助け、皆、迅速に村を出るように」

村の司祭が、皆に指示を与え村の外へと誘導する。

わたしたちは、ドンレミ村の南に位置するヌフシャトウという街に一時疎開することになった。

村の人たちは、みんな無念の想いでいっぱいの表情をしていた。

平和で美しいドンレミ村を敵の手にみすみす渡すことの無情さ。

でも、わたしたちは戦うことも剣を取ることもできない、ただの農民なんだ。

それが、無念だった。



村を出て10分がたっていた。

ジャック父さんとジャンたち兄弟は動けない人を手助けしながらかなり前を歩いていた。

イザベル母さんとわたしたち女姉妹は固まって後方を歩いていた。

その時、ふいにカトリーヌがわたしたちの列を抜け出て立ち止った。

「どうしたの?カトリーヌ」

イザベル母さんが立ち止ってカトリーヌを振り返る。

カトリーヌは蒼ざめた顔で、肩を小刻みに震わせていた。

「……レミがいないの。さっきから探しているんだけど…もしかしたら、わたしが森に咲いている赤い花を取ってきてほしいって言ったから…そしたらつきあってあげるってわたしが言ったから……!!」

レミは、最近カトリーヌに想いを寄せていた19歳の少年だった。

「大丈夫よ、カトリーヌ。そんな冗談真に受ける男の子なんていないわ。きっと前の方の列にいるのよ」

イザベル母さんがカトリーヌの手を取ろうとしたその時。

母の手を振り切り、カトリーヌは、もと来た道を一目散に駆けだしていた。

「カトリーヌ―――!!!」

悲鳴のようなイザベル母さんの声に、わたしは一瞬凍りついたけど、ジャンヌはその瞬間、鳥のように飛び出した。



「……ジャンヌ――――――!!!」