その時、ジャンヌは愛するフランスの空を見上げた。

それは、哀しいほどに、青かった。

「神様、これがあなたのお答えなのですね……?」

深紅に燃えたぎる炎と、どこまでも青く澄んだ空。

それはいつも、ジャンヌの心に住んでいた。

(ジャンヌは、フランスのこの青い空が……好き)

いつもジャンヌの心を支え、寄り添ってくれていた神の声は、もう、聴こえない。

「すべてを…委ねます…………神に…」

最期の神への一言は、激しく燃える炎の轟音にかき消され、空へと上っていった。




19歳でその短い命を炎に散らしたジャンヌの灰は、セーヌ川に流された。

土に返り、神の身許へ還ることも許されなかった哀しき少女、ジャンヌ。




だが、彼女は愛されたのだ。


誰もが、愛されたいと願い、だが、その声を聴くことも叶わなかった“神”という存在に。


ジャンヌ・ダルク。


聖人にして、異端。

少女にして、英雄。



男装にして、


―――――――――『純潔の乙女』