あのまま逃げてきてしまったわたしは、最低だ。

あれからまともにカミーユの顔を見れない。

気まずくてどうしていいかわからないよ。

「……ミシェル?どうしたの?さっきから黙り込んで。…具合悪い?」

ジャンヌが心配げに隣からわたしを覗きこんだ。

「…もしかして、カミーユと何かあった?彼もさっきから怖い顔してるんだよね。わかった!またカミーユがミシェルを泣かせたんでしょ?そういうことなら任せて。ミシェルを泣かせたらこのジャンヌ様が許さないんだから」

「ジャンヌ!違うの!……わたしが悪いの。だから彼を責めないで…」

…ジャンヌを護るために神の教えに従って、処女を護りたい、恋ができないなんて、ジャンヌには言えない。

ましてや信仰心のないカミーユにわかるわけもない。

ジャンヌは、訝しげに眉をひそめると、そのまま何も言わなくなった。

……これでいいんだ、きっと。

――――まだ、つらくない……きっといつか、カミーユを忘れられる。




数時間後、わたしとジャンヌは、生まれて初めてセーヌ河の河岸に降り立った。

「セーヌ河だよ、ミシェル!!」

闇に隠れてはいても、それはとても美しかった。

星の瞬きすら、吸いこんでしまいそうなほどの美しい水面。

それは少し、フランスの青い空に似ていた。

「こんな美しい河でなら、死ぬのも悪くないかも」

微笑みながら呟いたジャンヌの一言が、妙に心に引っかかった。

「…ジャンヌ、死ぬなんて縁起の悪いこと言わないで…!」

「冗談だよ、ミシェル」

ジャンヌはフランスの青い空のようにどこまでも済んだ笑顔で、笑った。