…ど、どうしよう。

あと2時間、女たらしのカミーユと2人きりだなんて、まさに“蛇に睨まれたカエル”だよ。

どうやってこの急場を凌ごうと思っていると、カミーユが立ち上がった。

「さて、オレも2時間“蛇の生殺し”状態は嫌だからね。そろそろ脱出するとしようか」

不敵に笑うカミーユに、わたしは唖然とする。

「そろそろ脱出って…だって鍵はないんでしょう?」

カミーユはスタスタとドアまで歩いて行くと、ドアに耳を当てた。

「いなくなったらしい。そろそろ“彼女”が来てくれるはずだ」

“彼女”?

誰のことかと思っていると、ドアが静かに開き始め、その向こうに昨夜カミーユを眠らせた色気たっぷりの娼婦が立っていた。

「…あ、あなた!?」

娼婦はカミーユの腕に手をかけて、甘い声を出す。

「シセは今、他の客の応対に出てるの。逃げるなら今のうちよ?」

「悪いな。礼ははずむよ」

カミーユが服の襟に手を入れて何かを取り出そうとする。

彼女はそれを瞬時に抑えると、カミーユの首に抱きつき彼の唇に彼女の色っぽい唇を重ね合わせた。

………カミーユ……!!

呆然として二人のキスをただ見つめていた。

時間にしたらそんなに長くないはずなのに、キスを終えるまでがすごく長く感じられる。

名残惜しそうに唇を離した彼女は、微笑を浮かべて言った。

「礼ならお金じゃなくて、キスでいいわ。あんたが娼婦で満足する男じゃなくて残念だけど、あの子の前でしてやったからあたしは満足よ」

そして勝ち誇ったようにカミーユが言う。

「それはどうも。どうやらオレは金で買えない女じゃないと満足できない男らしくてね」