「…私を、ひとり残して、二人とも…」



ーー『夜深ちゃんはいい子だから、一人でも大丈夫よね?』


『うん』


『夜深ちゃんは強い子だからね。お母さん達心配ないわ』


『…うん。』ーー



「私、好きとかそういうの、よくわからなかった。愛とかも。ばかばかしいって思ってた。だからね、はじめに唯人君が一目惚れしたから付き合おうって言ったときも、信じられなかった。」


だって…


「愛とか恋とか、誰も教えてくれなかった。」


「夜深…」


「でも…唯人君が、教えてくれたの。」


「…」


でも、なのに。


「私は、唯人君を傷つけちゃった。大事にしたいと思うと私はみんなを傷つける。だからね。だからっ…」



……え…?


観覧車の窓の外にあった視線を雅人君に向けたとき。


ふわりと唇に柔らかい感触。


一瞬何が起きたのかわからなかった。


「………」


これって…


え…


「ごめん。キスした。」


「…」


「夜深?」


は?


え?


「……」


キス?


ガチャンッ!


「おかえりなさ~い!お疲れさまでした~!」


そのとき、勢いよく扉が開いて、係りの人が貼りついた笑顔を向ける。


「お、ついた。夜深、先降りなよ。夜深?」


私、キスされた。


雅人君に、キスされた。


…!


「か…」

「か?」

「帰る!」

「え、おい!夜深!」



私は唇を手で押さえながら雅人君から逃げるように観覧車から降りた。


そして、全速力で出口まで走った。