「あれでよかったの?」


私鉄の三階の切符売り場で、早紀さんが話し掛けてきた。


「何言ってるんです?
早紀さんが計画したことでしょう?」

券売機のボタンを押しながら、僕は答えた。

「そうだけど」

早紀さんも券売機のボタンを押した。

「うまくいったじゃないですか」

「そうね。たしかに大成功だった。
でも、あなたはあれでよかったのかしら?」

「どういう意味ですか?」

「あなた、ゴンドラの中で言ってたわよね。
昼間『理想の彼氏』って映画を観たって」

「ええ。観ましたよ」

「あれってラブ・ストーリーよね?」

「そうですけど、別にいいじゃないですか。何を観たって」

「でも、そのあと、観に行った相手とその彼氏を仲直りさせようとしてるのよ?
そんなときに、そういう相手とラブストーリーの映画なんて、普通観るかしら?」

「……何が言いたいんです?」

「ゴンドラの中であなたを見ていて思ったの。
あなたひょっとして……」