「乗れるの?」


そのとき、後ろから男の声が聞こえた。

いつの間にか、女の連れの男が来ていたようだ。


「あいのりなら大丈夫だって」

「マジで? あいのりかよ」

すぐ前に、そのあいのりする二人が並んでいるというのに、無神経な男だ。


どんな顔なのか拝んでやろう。


私はチラと横目を向けた。


男は身長が高く、すぐ目に入ったのは黒のブルゾンだった。


見覚えがあるなと思いつつ、私は顔を上げた。


聞き覚えのある声だなとも思い出したときは遅かった。



嘘――。



反射的に、私は体をひるがえした。


まさか。


こんな偶然あるわけが……!


あったのだ。


透(とおる)だ。


一ヶ月前にけんか別れした透がいる!


私の心臓の動きは、たとえペースメーカーを使っていたとしても一定に定まらないだろう。