しかし電車に乗る金のない、泉のできる行動は自転車しかなかった。

“誰もが知ってる自分”がこの町にはある。

“他人しか知らない自分”も・・・

“自分しか知らない自分”

・・・泉は思いつめていた。

そして、
“誰も知らない自分”

それを求めて動くしかなかったのだ。

泉が一美と昔二人で読んだ恋愛小説があった。
そこに書いてあったこと。

『恋愛で大切なこと
それは
愛する人と別れる事。
別れなくして成長できない事があるのだ。』

これを二人が読んだとき、二人はもちろん意味が分からなかったし、馬鹿にした。

泉は今、
いいように解釈した。

自分を信じ、思い込むようにして、空が暗くなり始めた道をのんびりと自転車を走らせる。
すると、すぐさま手を広げて道を塞がれた。