『1章』

泉と一美は、東京から鈍行で3時間乗れば着く、田舎の、どこにでもいる平凡な高校生だった。

あの夏までは・・・

1995年。
この年、二人は高校2年生になっていた。
梅雨も終わり本格的な夏が始まろうとしていた時期である。

このドラマの主役は、クラブ活動もしていない、ごく平凡な家庭の一人っ子、グウタラな甲本泉。
この男の特徴は女と間違われそうな名前と背丈180センチの長身だけである。

そしてもう一人は、オサゲの似合う真面目な、眼鏡をかけた澤島一美である。
一美の家は父子家庭で、父親は刑事をしている。
刑事とは不規則な仕事で、父親は家を留守にすることも多かった。一美はたえず一人で父の帰りを待ち、一緒に夜食を食べる事も稀だった。

しかし
誰しもその立場にたたないと分からない。
一美はその寂しさに負けたり言い訳で誤魔化してはいけないのである。

人は皆それぞれに必死に生きている。
そして生きるということ人生とは、自分が主役なのである。

自分が今何をしたいかを考えること、それはいくつ年をとっても同じである。

一美が泉を誘った夏休みのある日。
和美は、幼馴染の泉が相手だとはいえ、確かに浅はかだったのかもしれない。
高校生とはまだ精神が確立していない不安定な時期である。

「親がいないから、泉、うちにこない?宿題やろうよ」

一美からそう誘ったのである。

もちろん泉に断る理由なんてない。

このくらいの年頃の男の子は女なら誰でもいいものである。

性欲が主役なのだ。

しかし、泉は失敗した。