彼はまつ毛を伏せたあたしの頬をつねる。



「忘れるのが無理なら思い出にすればいい。


……せっかく大事に大事にしてきた気持ちだもんな?」




「思い出…?」



ひりひりと痛む頬をさすりながら問う。




春基は頷く代わりににっこりと笑ってみせると



「どんな物でも、区切りをつけないと新しい事なんてできないだろ?


俺さ、恋愛と数学は一緒だと思うんだ。

恋が一個の公式だとする。


順調にその公式をつかった問題を解いて行ったのに

難問にぶち当たって
それから逃げようとする。

今のお前の状況がそれだ。




最後まで理解しないまま諦めて、新しい公式の問題を解こうとするなんて無謀すぎる。


大体の計算問題ってソレの組み合わせだろう?


理解してない公式があったら、新しい問題も解けっこない。

結局はまた最初に戻ってこなきゃいけないんだ。



二度手間で、無意味な事だと思わないか?



恋愛も同じ。



諦めがつかないまま他のやつを好きになったとしても


きっといつか戻ってしまう。



戻らなくても、難問にぶつかったら


また諦めてしまうんじゃないか?」







―――――頭を殴られた様な衝撃がした。