魔法暦五百七十一年。魔法警察『SIREN』レギアス支部。
 その広大な建物の中の一室、SIRENのメンバー用に建設されたトレーニングルームにて、二人の青年が模擬戦を行っていた。

「はあっ!」

 振り下ろされる細身の模擬刀。振るうのはSIREN第七執行部隊所属、コーラル・ケイリュオン一尉。
 その斬撃を身丈ほどもある大剣で受けるのは第七執行部隊の隊長を勤めるグレアム・ライオネル一佐。

「甘いな」

 獲物の大きさだけでなく、体格、身長も明らかにグレアムの方が一回りも二回りも上。コーラルの全体重をかけた振り下ろしも、グレアムの腕力に任せた打ち上げによって弾かれる。

「やっぱり力じゃかなわないか」

 コーラルは一度後方に飛んで五メートルほど距離を取り、自分の模擬刀を握り直す。

「力でかなわない敵は、スピードで撹乱」

 コーラルは自己暗示のように呟き、目を閉じる。
 集中、体中から溢れ出す赤色の魔力光。それは次第にコーラルの足へと集まっていく。

 補助魔法の内の一つ、能力呪文(アビリティスペル)。
 その名の通り自らの体に魔法による特殊な能力を付加する魔法だ。

「紅蓮の脚装『ブレイズレギンス』」

 コーラルが得意とする魔法の一つ『ブレイズレギンス』
 両足を纏うのは魔力の炎。相対するグレアムに向かって一歩を踏み出した瞬間、コーラルの右足の魔力が爆炎を巻き起こし、コーラルの体を一気に押し出した。