「すまなかったな」

 しばらくの沈黙の後、青年から発せられた言葉は謝罪の一言。

 青年は語る。今回の事件は村の魔法図書館に保管された一冊の魔導書を盗み出した犯人が行ったことだと。
 護衛の者が倒され、通報を受けて駆けつけるも間に合わず、犯人も取り逃がしてしまったと。

 悪いのはこの青年ではない。そんなことくらいはまだ小さいコーラルにも理解できる。
 理解しているにも関わらず、コーラルにはただ顔を伏せるしか出来なかった。

 しばらくしてコーラルの傷は完全に塞がり、それを確認すると、青年はゆっくりと立ち上がってコーラルに背を向けた。
 それが意味するものは一つ、『別れ』だ。

「ま、待ってください!」

 コーラルは思わず青年を呼び止める。
 ここで何もしなければ、すべてが終わってしまうような気がしたから。

 青年が振り返ることを確認してから、コーラルは続ける。

「俺は、村に火を放った犯人が憎いです。なにも出来なかった自分が情けないです。だから、だから俺は力が欲しい!」

 コーラルの瞳にはもう涙はない。
 真っ直ぐな眼差し、それをしっかりと見つめながら、青年は言葉を返す。

「欲するのは復讐の為の力か? それとも、自分を誇示する為の力か?」

「どっちも違う!」

 ただ一言、それを発した少年の瞳には、光が満ちていた。
 それを見て、青年は笑みを零す。

「俺はグレアム・ライオネル。お前の名は?」

「コーラル……コーラル・ケイリュオン」

「コーラル……古代アレギア語で『聖なる光』を意味する。うむ、いい名だ」

 青年、グレアムは再びコーラルに背を向け一言。

「付いて来い」

 ――これが後に魔法警察のエースとなる少年、コーラル・ケイリュオンの旅立ちの物語。