それはまさに、『悲劇』と呼ぶに相応しい光景だった。

 作物は焼かれ、家屋は崩れ落ち、村人は瓦礫の山に埋まる。

 最早村の原型を留めない廃村を駆け回る一人の少年。彼の名はコーラル・ケイリュオン。
 事件発生当時、近くの丘にて毎日の日課である剣の鍛練を行っていた為、事件に巻き込まれなかった唯一の住人。

 丘の上から、村に火の手が上がるのを見て慌てて戻って来たのだが、時すでに遅し。

 目の前には瓦礫の山へと変わり果てた自宅。

 少年は現実を理解した。自分の家族は、友人は、村のみんなは、誰一人として生きてはいないと。

 少年はその場で静かに膝を降り、涙を流す。
 しかし、溢れてくるのは悲しみではない。村に火を放ち、愛する村を、人々を焼き払った者に対する憎しみ。なにも出来なかった無力な自分に対する怒り。

 少年は足元に落ちていた瓦礫を何度も何度も殴りつける。
 大切なものを根こそぎ奪って行った犯人を、大切なものを守れなかった情けない自分を頭に浮かべながら、何度も、何度も、自らの拳が抉れて鮮血に染まることもお構いなしに何度も、何度も……

 もう何十発目かもわからない拳を振り下ろそうとした時、それは横から伸びてきた一本の頑丈な腕によって止められた。