「唯様!
ほら、早くそちらから
出てきなさいな。

怖がることは何もありませんのよ?」




「怖がってるんじゃなくって、
恥ずかしいんですっ!!」




んもー…。



なんでこんなことに…。



透明な湖の縁には、
フィラさんが手を振ってこっちを見ている。



対する私は大きな木の陰に隠れて
身を潜めている。




…バスタオル一枚で。




「何を恥ずかしがることがあるんですか。
清杯の儀は神聖なものですよ?

無欲にならなければ身を清めることは
できませんわ」





「神聖なものでも無理なものは無理です!」




今私がやろうとしているのは
『清杯の儀』という、
神の名における儀式。



もともと神様に近づくための儀式として
巫女さんや各国の姫たちがとりおこなっていた
そうだけど、今はもう昔の話。



この儀を行う人も
神に近しいとされるごくわずかな種族しか
持ち合わせなくなり、より特別で
まれなものとなった。




神とされる色羽の夢鳥の一部である夢片鱗。



当然私もそれを行うわけで。



「ほらっ、早く!」



「で、でもでも!
儀式中に影とか襲ってきたりしたら…」




「心配ありませんわ。

この湖は色羽が体を休めたといわれる場所。


神の力の入り混じったこの場所に
彼等は一歩たりとも入ることはできません」




なんとか逃げ去ろうとしても、
結局無理っぽい。




「…っはぁー…。わかりましたよ」