零の狼-新撰組零番隊-

ビルの屋上、その角に立ち、己の姿を見せつけるように、男は切れ長の眼で眼下を見据える。

彼の姿に気づいているのは、私と一七夜月さんだけだ。

「祝」

「……」

私は無言で頷く。

間違いない。

凶行の犯人は紛れもなくあの男だ。

犯行直後なのに、現場から逃げる事もせず、その喧騒を見物している。

どこまでも大胆、どこまでもふてぶてしく、どこまでも不敵だった。

そして恐らくは…あの男が六郎面さんの追っていた、威震志士の一人、七種雲母に違いないと思った。

確証など何もない。

しかし、あの男が発する血の匂い…凶行直後の新しい血ではなく、その身に染み付いた幾多の人斬り働きの血の匂いが、私にそれを直感させていた。