「堅苦しい事言うんだな」

私の注意を一七夜月さんは鼻で笑う。

「これはだらしがないんじゃなくて、『粋』ってもんだ。わかるかい?ええと…」

「…春夏秋冬祝です…春夏秋冬(しゅんかしゅうとう)に祝うと書きます…」

名前を呼ぼうとして言葉に詰まった一七夜月さんに、私は名乗った。

「春夏秋冬…祝…風流な名だねえ」

顎の辺りを撫でながら、一七夜月さんが呟く。

…世辞か、本心か。

どちらにせよ、私には興味がない。

名など、個人を特定する為の手段の一つだ。

特定できるならば、私は番号でも構わないと思っている。

「……」

無言のまま、私は背を向けて歩き出す。

「…無愛想な事で」

一七夜月さんが背後で苦笑いする気配があった。