既に肉まんを食べ終えてしまった俺は
肉まんの温もりを失ったせいで、
雪の降る外気の冷たさが身に染みる。

手袋はしているものの、
マフラーを忘れてきた首筋や顔に
ぽつぽつとじんましんが浮き出てきた。


「…かゆい?」
「え?あぁ、これ?…まぁな。」


さり気なく首筋を掻いている俺の手を見つめ、
永遠子は少し申し訳なさそうに尋ねた。
正直に答えてしまったことで
より一層、空気が重たくなったような気がする。


「…ごめん。」
「や、いや、別に大丈夫だし!」
「ほんと…ごめん。」


やっぱり今日は何かおかしい。
素直に謝る永遠子なんて、おかしすぎる。

再び目線を、もう冷めきってしまっているだろう肉まんに落とした永遠子は
何度も何度も溜め息を吐いた。
何かを言いたげなのに、
中々それを言い出してくれない。


俺に言いにくいことなのだろうか?
何か俺、悪いことをしたのか?


言いたいことが何なのか見当もつかないまま
俺は黙ってベンチに座り、目の前に広がる
人一人いない、暗い公園を見つめていた。


「…今日は、イヴなんだよね。」
「へ?…あぁ、そうだな。」
「明日になったら……サンタさんからの
 プレゼントが置いてあるんだよね。」
「…俺らは無いけどな。」


だね、と軽く笑って
また永遠子は口を閉ざしてしまう。

唐突に何を言い出すのかと緊張したが
結局彼女の真意はまだ分からない。


「いいよね…子供は。」
「俺らも子供だろ。」
「…うるさいな。分かってるよそんなこと。」


いつものように口を尖らせて、
お決まりの「うるさい」。
そんなことに今日ばかりは少し安堵して
俺は視線を永遠子に向けた。
永遠子は相変わらず、肉まんを見つめている。


「サンタクロースが来るって、
 信じてたあの頃に戻りたいよ。」
「はぁ?何か欲しい物でもあるのか?」
「……まぁね。」


こんな深刻な永遠子は、
本当に初めて見た。
それほど欲しいものなのか?
もしかして、欲しいけどあまりに高額で届かないとか?

クリスマスくらい、俺だって何かプレゼントしてやりたい。
でも……肉まんが限度だ。
ごめん…永遠子。