今目の前にいて、
話してるのは間違いなく彼なのに
私の脳はちゃんと理解しようとしてくれない。

嬉しいはずなのに、何も返せない。

だって……絶対ダメだと思っていたから。
不可能だって、信じてた。


「嘘、」
「嘘じゃない。」
「だって、私なん、て
 日和のくせに日陰だし、」


駄目だ――また涙が出そう。

泣きすぎて赤くなった顔を見られたくなくて
俯こうとするけれど
それを夜久くんの右手が阻止する。

視線だけが、あちらこちらを泳いだ。


「まともに喋ったことないじゃん……!
 いつも見てばっかで…タオルだって、
 全然渡せなくて……」

「それも、知ってたよ。」


そう言って優しく微笑んでくれた彼から
また目が離せなくなる。

夢みたいだ……


「俺、楽しみにしてたのに。タオル。」
「嘘だぁ……っ」


今の私にとって、想いが通じたことよりも
夜久くんもいつも私を見ていてくれたことが
嬉しくて嬉しくて、

もうどうにかなってしまいそうだ。


「泣きすぎー。」
「ごめ…っ、でも、止まらな、い」


頬にあった夜久くんの大きくて優しい手が、
自然と私の手を握った。


「喋ったことが無くても、
 日和ちゃんは俺のこと好きになってくれただろ?」


それと一緒、と
今度ははにかんだように笑う。
対する私は、さっきから泣きっぱなしだ。


「俺と……付き合ってください。」

「……!」


あぁ、神様。

もしこれが夢ならば
もう覚めなくてもいいです。