どこまでも穏やかな彼の表情が、
このときばかりは何故だか
不気味にさえ感じた――が、
どうやら心配損というものだったらしい。

俺よりも一回りほど体格も身長も小さい綾太は、
俺を見上げて言った。


「確かに美奈や君の言うとおりだった。
 僕は、彼女の愛を独り占めしたかったんだと思う。」

「美奈は、僕の向日葵だったから。」


俺を、いつも太陽みたいに照らしてくれるんだ、と
眉を垂れ下げ、力なく笑う。
やはり、口ではどれほど大丈夫と言っていても
きっと今の彼の心は、ボロボロなのではないだろうか。


「僕は、月だ。」

「太陽の光がないと、輝けない。」


綾太は、遠くを見つめる。
俺は、そんな彼を見る。
こんな輝きを失った綾太は、初めて見た。


「捕まえられないものだって、分かってたのにね。」


斜め下に視線を向けつつ綾太は
でも、と続けた。


「美奈は、僕を愛してくれた。
 ずっとずっと――…愛してくれるんだ。」
「そ…そうか、」


唐突な綾太の話の展開に
俺は意味が分からず曖昧な相槌を打つ。

”執着心”と言えるほど、
美奈を愛していた彼の言葉は、
深い悲しみと切なさを、俺の心にもたらした。


美奈は、お前を愛してなんかなかった。
最後まで――独りよがりの愛だったんだよ、

綾太。


「だから美奈は、今でも僕の一番近くにいるよ。」


何をされても、それを知ったとしても
美奈を信じ続けた彼の心が
俺には――痛かった。


だから大丈夫、と笑う綾太とは対照的に
俺はあまりにも辛くて視線を落とす。
彼の背負ったリュックサックには、季節外れの
向日葵が差してあった。


そのときだった。