――事は、1時間ほど前に遡る。


突然、テレビの音しかしなかった家に
けたたましい電話の音が鳴り響いた。


どうせ何かのセールスか、
弟の友達くらいだろうと思ったので、
ソファに寝転がり、テレビを見ていた俺は
その体を起そうともしなかった。

しかし、あまりにもしつこい相手に
俺は必死で我慢比べをしていたのだが
とうとう耐えきれなくなって、
受話器に手を伸ばす。


「ったく……誰だよ。」


ソファから届きそうで届かない微妙な距離にさえ
苛立ちを感じながら
電話の子機を手にして、通話ボタンを押した。

相手は、予想外に珍しい相手。
中学時代の同級生だった。


『はぁ…っ、良也(ヨシヤ)か?!』
「あぁそうだけど…何だよ。」


やたらと息の荒く、声の大きい相手に対し
俺は思わず耳から受話器を遠ざける。

その間も何かを伝えようとするのだが、
滑舌の悪さと焦りで、一体何を言っているのか
さっぱり聞きとることができなかった。


「はぁ?ちょっと落ちつけって…」
『美奈が、』


その一瞬、荒い息使いの向こうで
確かに一人の女の名前が聞こえた。


「美奈(ミナ)……?」

『死んだ』


息が詰まった。

血の気が俺の体から引いていくのを感じる。
小刻みに震えだした手が、
危うく受話器を落としそうになった。


今、何て――?


きっと今の俺の顔はさぞ間抜けなことだろう。
今、何を言ったのかさっぱり脳が理解できない。
俺はただ呆然と、受話器を耳に当てるだけ。

ほんの数秒の沈黙の後、
震える唇からようやく言葉を絞り出した。
しかし出たのは、やはり


「嘘だろ…?」


の一言だった。