決して埋まらない”2年”という年月の差は
いつだって私を悲しくさせた。



「遅れてごめんなさ…痛っ!」


約束の時刻より10分も遅れて、
いつもの待ち合わせ場所である街近くの時計台まで走る。

やっぱり彼はいつもと同じように
時計台の土台に浅く腰かけ、
ポケットにその両手を突っ込んだ姿勢で私を待っていた。

姿が見えて、走る速度を速めると
慣れないヒールのせいか途中で右足を内側に捻ってしまった。
取り残された足跡のように、私の少し後ろに転がるパンプス。


「もう…!」


右足に手を添えてしゃがみこむ。
背後にあるお気に入りのパンプスは、今は恨めしくて仕方が無くて
思わずそれを睨みつけた。

彼まで後少しの距離なのに、中々辿りつけない私。
ふと私の頭上に影が落ちて顔を上げれば、
ジッ…と私を見つめる彼の姿があった。


「あっ…先、輩。」
「…何やってんだ…。」


季節は春も近付いた冬。
ここ最近の気候は十分暖かくて、マフラーはたんすにしまった。
でも、見上げてそこにいる彼は案の定。
濃い赤色のマフラーを巻いていた。


「こん、にちは」


口元をマフラーで埋めて、ジャケットのポケットに手を突っ込んで立つ彼に
私はどこか緊張した面持ちで笑いかけた。
無言の彼は、眉間に皺を寄せたまま、私を見下ろす。


(お…怒ってる…?!)


そう思うとより緊張度が増して、
ふいにゆっくり伸びてきた彼の手に、
私はあからさまにビクッと肩を揺らす。

しかしその心配も呆気なく、彼の大きな左手は
私の髪を大雑把に優しく撫でた。
その手は小刻みに震えていた。


「…寒ィな…」
「えっ、あ、ハイ。」


――そっか、先輩寒がりだった。


そのことに気付き、私はホッと胸を撫で下ろす。
眉間に刻まれている皺も、
きっと寒さのせいだと思いたい。