身分制度など世界史の教科書の中で語られているだけがハルカの持つ知識の全てだった。

「そう暗い顔すんなって。この辺の人はみーんな青だっつの。俺がちょっと偉いだけで」

「……はい」

「辛気臭い顔すんね、ほんと。これ食べる?」

 目の前にずいっとケバブが差し出される。

「いらないです」

「遠慮はいらねーよ?」

「いらないです」

 噛み跡だらけの肉塊を拒み、ハルカは少し笑った。

「いらないの、ああそう。そういやこういうのに慣れてるおばちゃんがいるんだよね。そいつのとこ下宿して黙々と指輪作ってればいいから」

 イタチはハルカの手を取って青い宝石の指輪を人差し指にはめた。少し肉汁でべとついた手に不思議と嫌悪感はわかなかった。

「外しちゃあいけないよ。嫌でもつけとくんだ。そうしないと捕まるからね」

 小さく光る宝石はハルカの細く白い指に映えた。

「……イタチさん、ありがとうございます」

「ひゃっひゃ、これは俺の仕事みたいなもんよ」

 イタチは身体を揺らして笑い、ハルカに地図を渡した。下宿先への道だと言う。

 ふとハルカはイタチのところまで案内してくれた綺麗な青年を思い出す。名前をきくどころか、お礼を言うことさえ忘れてしまっていた。

 彼との再会を願いながらハルカは地図通りに道を進んだ。