「そんな冷たいこと言うなよ朽木。せっかく久しぶりに会えたんだし、俺も栗子ちゃんとお話してみたいな。一緒に行こうよ」
 
「ナイス! ナイスフォローですよハニーさん!」
 
 あ。思わず口に出ちゃった。
 
 ずごんっ
 
 途端、あたしの脳天に強烈な唐竹割りチョップが振り落とされた。
 
「ハニーさんって……?」
 
「拝島のハイをもじったんだよな! こらグリコ! いきなり馴れ馴れしい呼び方をするんじゃない!」
 
 い、今のは効いた……。ちょっと涙目。
 
 ハニーさん――拝島さんに背を向けて、あたしを振り返った朽木さんの形相は物凄かった。
 
 その一睨みで並みの不良は裸足で逃げ出すんじゃないかってくらい迫力がある。
 
「おのれは協力するのか邪魔するつもりなのかどっちなんだ」
 
 静かな怒りを秘めたヒソヒソ声で話しかけてくる。
 
「ごめんごめん、ちょっと口が滑った。ドンマイあたし!」
「全然ドンマイじゃないっ!」
「大丈夫、今後は上手くやるから!」
「頼むからもう帰ってくれっ!」
 
 そんなあたし達のやり取りを拝島さんは不思議そうに見つめている。
 
「ほらほら、ヒソヒソ話してると不審に思われちゃうわよ。大丈夫、これでも昔、演劇部にちょっとだけ在籍してたことあるんだから! 白馬の後ろ足の役なんてちょっとしたモンよ!」
 
「その役セリフないだろうが――っっ!!」
 
 朽木さんの叫びを無視して軽やかに横をすり抜けるあたし。
 
「というわけで、よろしくお願いします、拝島さん♪」
 
 拝島さんの前でステップ踏んだ足を止め、にっこり笑いかける。