「うまいっ! うまいよ真昼ちゃんっ!」
 
 当然の如く、高地はグリコの弁当の存在を無視し、池上の弁当を褒めちぎっている。
 
 グリコは面白くなさそうに頬を膨らませた。だがそれも仕方のないことだ。
 
「あたしのだって食べれば美味しいもん! 祥子、この唐揚げどう?」
 
「悪いけど、お腹壊しそうだからいらない」
 
「むぎぃっ! 真昼、これシャケの塩焼き。一口食べてみてよ!」
 
「グリコ……今度料理教えてあげるから。今日のところは素直にソレ、しまいなよ」
 
「最初は誰だって失敗するもんだ。徐々にレベルアップして行けばいいのさ。な、グリコちゃん」
 
「むがぁーっ! みんなして生温かい目で諭そうとすんなーっ!」
 
 とうとうキレたか。
 しかしどうにもフォローのしようがない。
 
 が、そこに勇気ある救世主が現れた。
 
「俺、この唐揚げいただくよ」
 
 なんと、心優しい拝島が、グリコの料理に箸を伸ばして言ったのだ。
 
「拝島! 無茶するな!」
 
「拝島さん……本当?」
 
 グリコの目が輝く。
 
「うん、せっかく作ってきてくれたんだし。一口くらいは食べないともったいないよ」
 
 拝島はそう言うと、箸でつまんだ黒い物体を、迷いなく口の中に入れた。
 
 途端。
 
 じゃりっ
 
 拝島の口の中から。
 あり得ない音がした。
 
 ひくっ、と拝島の頬がひきつる。
 
 じゃり。じゃり。
 
 もともとそれほど濃くない拝島の顔色が更なる白に変わっていく。