「朽木さん、はい、どーぞ」
 
 差し出された皿に載ってる物体を穴の開くほどに見つめ、
 
「……これは何だ」
 
 冷や汗と共に俺は言葉を紡ぎ出した。
 
「何って、おにぎり。こっちはタコさんウィンナー」
 
 腹が立つ程にしれっとした顔でグリコが答え、急かすように皿を押し付けてくる。
 
「おにぎりが黒いのは分かる。だがウィンナーは普通、赤かピンクじゃないのか? これはもはや炭だろう」
 
 答えながらこめかみがひくつくのが分かる。
 そう。差し出された皿に載ってる物体は、見事なまでに、黒一色に染め上げられていたのだ。
 
 ちなみに、おにぎりと呼んでる物体はでかい上に相当いびつな形をしていて、食欲がそそられるどころではなかった。海苔でぐるぐる巻きにしてあるし。
 
「えー。一応ウィンナーの味がしましたよー。微かに」
 
「微かってのはなんだ微かってのは! 明らかに失敗作だろうこれは!」
 
「住めば都。食べてみたら意外と美味しい。そういうモンです世の中は」
 
「勝手に世の中をお前の物差しで測るな! 食べれるかこんなもん!」
 
 予想通りというかなんというか。
 
 俺はグリコの作った正体不明の物体がぎっしり詰まってる箱を見やった。
 
 いや……これは予想を遥かに上回っている。
 
 彩り豊かな弁当など、はなから期待してはいなかったが。
 
 まさか黒一色の弁当が出てくるとは思わなかった。
 
 いくらなんでも、もう少し赤や黄や茶が覗いてもいい筈じゃないだろうか。
 
 それに比べて、池上の作った弁当は完璧だった。
 
 きのこの炊き込みご飯に、種々の野菜の煮物。アスパラベーコンや唐揚げ。青野菜の和え物も忘れない。
 
 彩りも味も栄養も申し分ない。
 
 ここまで対照的な弁当箱が並ぶと、唖然を通り越して感動すら覚える。
 
 この対比は一種の芸術かもしれない。