「ノンケって、なんのことかな?」
 
「とぼけたって無駄ですよ。あなた……ゲイですよね。彼を狙ってるんでしょ?」
 
 
 こいつ、いきなり核心を突いてきた。
 
 
 俺が言葉を失ってると、女はますます調子づいて言った。
 
「あらら、爽やか笑顔の仮面が取れてますよ。そんな顔見せちゃっていいんですか? 彼に万が一見られたら不味いでしょ?」
 
「アンタ…………何が目的だ」
 
 最早この女には、どう取り繕っても無駄だと俺は悟った。声を低く落として仮面も捨て去る。
 
 こうなった俺ははっきり言って無慈悲だ。
 
 返答次第ではこの女を社会的に抹殺するのも辞さない。あらゆる手段を使って。
 
「そんなに怖い顔しないでください。私はしがないイケメンウオッチャーです」
 
「イケメンウオッチャー? なんだそれは」
 
「やですね。イケメンウオッチャーと言ったら、イケメンを観察する人のことに決まってるでしょ? 私はイケメンが大好物なんです。特にイケメンが二人並んで歩いてるのを見ると、涎が垂れそうなくらい歓喜します」
 
「それはご大層な趣味だな……。要するに変態女だな」
 
 途端、信じられないことが起こった。
 
 女があろうことが、手にしたバッグを俺の頭に叩き落したのだ。
 
「イエローカードです! いえむしろレッドカードに値します! そんな下劣な言葉、二度と使ってはいけません!」
 
「っっつぅ――――――いきなり何するんだ貴様っ!」
 
 俺は頭を擦りながら怒鳴り返した。
 だが女は怯むどころか、逆にヒートアップして声のボリュームを上げて言ったのだ。