「好きも何も……最初に約束を破ったのは千愛の方だっ」


「えっ?」


「……何でもない」


そう言って口を噤み、俺の隣を横切っていく舟瀬の表情はどこか辛そうに見えて……。



千愛が嫌いだと言い放った時の真っ直ぐな視線が、不意に頭をよぎっていく。



「……はぁ。なんで気付くかな、俺」



無駄に良すぎる勘がまた、俺にジレンマを作り出した。




多分、舟瀬には千愛と同じ癖がある。


千愛が嫌いだと告げた瞳は、じっと俺を見つめていた。


それは階段の踊場で千愛自身に言い放っていた時から、何となく俺の中で違和感としてくすぶっていたモノだ。