春、恋咲く。〜旅立ちの日〜

体育館から一歩出れば、拍手の波は遠ざかり、辺りは急に静けさに包まれた。


「終わったねぇ…」


曖昧に微笑むと、みなみはため息混じりにそう呟いた。


「うん…」


頷いて微笑み返し、あたしはふと足を止めた。


体育館から教室へ戻る途中に見えた桜の木は、まだ蕾をつけ始めたばかり。


「咲かなかったなぁ…」


ボソッと呟いたあたしの言葉に、みなみは何も言わなかった。


咲いたら良かったのに…


そしたら、きっといい思い出になる。


満開の桜と一緒に、きれいな思い出にできるのになぁ…


そんなことを思いながら、あたしはまた歩きだす。


なるべくゆっくり、一歩一歩、大切に。


急ぎすぎることのないように…