金木犀



台風が来た。そのせいで、金木犀が散った。
台風が来た。そのせいで、朝遅れてしまった。
台風が来た。

台風と一緒に、


「あかね、おーい」

六時間目の調理実習。
どうせなら、四時間目にすればいいのに、なんで六時間目にクッキーを作らなければいけないんだ。

そんな事を思いながら私は台風で揺れている窓の外の木を眺めていた。
季節の変わり目とあって、肌寒い。カーディガンを着ればよかった。

「あかねってば」

「・・・・あ、何?」

「何?じゃないでしょ、砂糖!あんたが手に持ってる砂糖!」

顔を上げると、友達の葵が、呆れたような顔で私を見ていた。
私は砂糖を葵に渡すと、また窓の外を眺めた。

「・・・・台風、来ちゃったねー」

「まぁ季節の変わり目は台風が来るっていうじゃん」

「・・・・・言うっけ?」

「言わないかも」

葵はふふ、と笑いながら砂糖を秤の上にサラサラと乗せて行く。
秤の針が、少しずつ動いていく。

「金木犀も散っちゃうね、あかねの好きな」

「あぁ、そうだね、大変だ」

金木犀、ね。

「でも、金木犀より大変なのは私の家の前に引っ越してきた家族だよ」

葵は砂糖をすくい、ボールの中へ入れる。
葵の白くて細長い指がボールの中へ入っていく。

「ああ、父子家族の?」

「ん」



台風の日に引っ越してきた、その家族は父子家族で、母親がイギリス人だったらしく、
子供はハーフなんだ、と母に聞いていた。
まぁ、関係ないけど。その子供はまだ小六の男の子だから。



関係ないけど。