gloom of the prince〜恋する研究室〜

「先輩。何で先輩は私のこと、呼び捨てなんですか?」

「……はっ?」


不意打ち。

だが、俺には沢村若菜の言いたいことがわからない。


「ミナミさんは南さんって呼ぶのに、どうして私は沢村なんですか?」

「そんなこと?」


それは俺がお前のことをフルネームで覚えたからで。


「じゃあ、何て呼べばいい?波多江みたいに、若菜ちゃんって――」


不意打ち、その2。

乾いた音が響き、頬に痛みが広がる。

俺は沢村若菜のビンタをくらっていた。


「先輩は……、何もわかってないです。」


涙目で俺に訴える沢村若菜は、いつもの彼女じゃなかった。


「じゃあ、何でお前は俺の名前を呼ばないんだ?」

「……えっ?」


困らせたいわけじゃない。

だけど、俺だって気になってたことはある。


「シゲヤマさん、タチバナさん、ミナミさん。みんな先輩なのに、何で俺だけ先輩なんだ?」


俺にだって、名前はある。

何で、名前で呼んでくれないんだ?


「そんなの……、私にとって先輩は、先輩だけだから。だけど、先輩にとっては私なんて、たくさんいる後輩の中の1人なんでしょ?」