「ごめん、遅くなった。」


沢村若菜はさっきと同じ顔で待っていた。

少しも不機嫌にならずに。

初めて会った頃は、いつも不機嫌だったのに。


「橘につかまって。ピザ、どれがいいですかって。」

「そうなんですか。」


俺は小さなウソを吐いた。

南さんにつかまった、なんて言ったら、また不機嫌になるだろ?


「じゃあ、行こうか?」

「はいっ!」


そう言えば、こうやって2人並んで歩くのは初めてだな。

俺の目線より少し低い彼女の笑顔を眺める。


「先輩、何笑ってんですか?」

「……俺、笑ってた?」

「はい、すごく楽しそうに。」

「何でだろ……?」


沢村若菜の前の俺は、ホントの俺か?

ホントの俺だな。

甘ったれで、ヘタレで、わがままで、さみしがり屋で。

そういう俺が、ホントの俺だ。

『優しい川崎さん』じゃない。