急ぎ過ぎた。

研究室から出てきた沢村若菜を見て、俺はそう思った。

今から冬空の下に出ていこうとしているのに、俺はコートも着てない。


「ごめん、荷物取ってくる。待ってて。」

「はいっ!」


満面の笑みで返事する沢村若菜を不覚にもかわいいと思ってしまった俺は、まだ熱が冷めてないのか……?

研究室に入ると、南さんが近づいてきた。


「川崎さん……。」

「何?何かほしいもの、ある?」

「私、――」

「南さーん!」


南さんが何か言いかけたとき、橘が南さんを呼んだ。


「ピザ、どれがいいー?」

「やっぱり――」

「南さーん、聞いてる?」


橘がまた南さんを呼ぶ。


「呼んでるよ?」

「わかってます。でも、私、やっぱり……。」

「南さんっ!」


橘が顔を出す。


「川崎さん、いたんですか?ピザ、どれがいいですか?」

「うーん、これ。じゃあ、沢村が待ってるから。ごめん。」


南さん、ホントにごめん。

やっぱり……、その先は聞きたくない。